歯ブラシの原型「歯木(しぼく)」
5つのご利益(ごりやく)
歯木とは細い棒の先端を噛んで繊維をふさ状にし、歯と舌を掃除する歯ブラシの原形のような道具。
紀元前5世紀、仏教の開祖である釈迦(ブッダ)のまわりに集まった弟子たちに説いた言葉をまとめた仏典によると、弟子である僧たちの口が臭かったため、釈迦は歯木を噛むことのご利益を説いたと書かれている。
①口臭がなくなる
②食べ物の味がよくなる
③口内炎などの炎症が無くなる
④痰(たん)をとる
⑤眼がよくなる
イスラム教でも
アラックという砂漠地帯に生える木の枝で作られている「ミスワーク」という歯木のようなものがある。礼拝の前にこれで口の中を清潔することが勧められており、現在でも使用されている。
歯木から楊枝に
インドから中国に伝わると「歯木」は「楊枝」と漢訳されるようになる
「楊」とは柳のこと。
中国には、インドで歯木によく使われている木がない一方、柳は豊富にある。
柳には霊力が宿ると古来より考えられており、隋や唐の記録には「歯痛を鎮めるために柳の皮を噛んでその汁を歯になすりつける」とあった。
楊枝というと、先が尖った爪楊枝が思い浮かぶが、もともとは両端を切りそろえた小枝、もしくは片方の先端を分けて裂いたものであった。
楊枝の教え
4~7世紀には、著名な高僧が西域を旅し、楊枝と釈迦にまつわる話も中国に伝えている。
釈迦が使い終えた楊枝を捨てたところ、その楊枝から根が生え、たちまち大樹となった。道に外れた者がその樹を抜き捨てても、すぐに元のように生えてくるという逸話である。
修行の一つ
「正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)」より「洗面の巻」
「歯間・歯ぐき・舌もみがく」
鎌倉時代の初期に道元和尚が伝えた歯磨き作法
・洗面台で面桶に湯を入れ、棚に置く
・右手に楊枝を持ち、華厳経を唱える
・楊枝の片方を細かくよくかむ
・歯の表面と裏側をみがくようにこする
・歯ぐきと、歯と歯の間も丹念にみがく
・その間、口を何回もすすぐ
・楊枝で舌をよくこする
・血が出たらやめる
・楊枝は目立たないところに捨てる
・洗面桶の湯をすくい、額から両方の眉毛、目、鼻の孔、耳たぶの裏などをくまなく洗う
ブッダの犬歯を祀る寺院
スリランカの仏歯寺(ぶっしじ)
仏教国であるスリランカの聖都キャンディには、ブッダの右側の犬歯が祀られている「仏歯寺」という寺院がある。
万全なセキュリティーの元に安置されているブッダの犬歯は、参拝者の目に触れることはないが、絶え間なく訪れる敬虔な仏教徒たちはみな、その犬歯のある部屋に向かって花を献じ、熱心に祈りを捧げている。
なぜそこにある?
紀元前に入滅したブッダの骨と歯は、インド各地に分割されたが、4世紀に隣国スリランカにその犬歯がもたらされ、それが「王権の証」として代々受け継がれてきた。
スリランカの王朝は、度重なる侵略によって、方々に遷都を余儀なくされたが、ブッダの犬歯を死守することが王朝の最大の使命だったといわれている。